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2. アトリエうかい、L’ABEILLEと出会う
-採蜜編-

―前回のあらすじ―
秋の新商品のヒントを探しに、はちみつ専門店を営むL’ABEILLEの養蜂場へ訪れたアトリエうかいのパティシエたち。はちみつと人類にまつわる深遠なるストーリーを伺った彼らは、貴重な採蜜体験をさせてもらえることに…。

季節は変わり、2022年初夏。 新緑に包まれる東京・八王子の高尾山。
アカシア、トチ、ユリノキや栗などの豊かな木立に薫風が吹き、木漏れ日が照らす山道を、L’ABEILLEの養蜂スタッフとパティシエの3人を乗せた車が進みます。
行先は、前回訪れた場所とは9kmほど離れたところにある、“ 高尾の森”と呼ばれる場所に位置するL’ABEILLEの養蜂場。
車中で養蜂スタッフが教えてくれたのは、良質なはちみつをたくさん採るためには蜜源となる花の量に見合った数の巣箱を置く必要があるということ。そのため、高尾山麓の中でもいくつかの場所に分散して養蜂場を構えているのです。
現地に降り立った彼らの目に映ったのは、はちみつがたくさん溜まった巣板の入った巣箱。L’ABEILLE の養蜂スタッフが煙でミツバチをはらい、ずっしりと重い蜜板を引き上げるとまだまだ無数のミツバチが…。
「一見すると同じミツバチですが、実はそれぞれ役割を持っているんですよ。」
と、養蜂スタッフが教えてくれました。
「1つの巣箱に暮らすミツバチはおよそ2万匹。花の蜜を集める役割の他にも、巣のお掃除係や子育て係、女王バチのお世話係に巣の門番。巣作り係、花粉集め係や、はちみつ作り係など、たくさんの仕事を分担して担っているんです。とっても働きものなんですよ。そして小さな体のミツバチが一生をかけて作り出すはちみつの量は、ティースプーン1杯程。わずか50日ほどしか生きられない寿命のなかで集めた希少なはちみつを、我々はいただいているんです。」
 
私たちにとって身近な食品であるはちみつが、ミツバチたちの多大なる労働から成り立っている希少な恵みであることを3人は驚きをもって学びました。
 
「日頃の養蜂活動で、特に苦心されている点はありますか?」
シェフの鈴木が尋ねると、養蜂スタッフは答えてくれました。
「養蜂は野菜や果物と同じように、天候の影響を大きく受けます。特に近年は春暖かくなるのが早かったり、梅雨が早かったり短かったりと、自然環境も変化しています。それにより、花が咲く時期や咲き方が毎年違うため、思うようにはちみつが採れないこともあるんですよ。」
 
働きもののミツバチと、その活動を支え、採蜜を行う養蜂スタッフ。
自然と人が共生しながら、自然から得られるものをありがたく享受することの尊さを、ひしひしと感じました。

蜜の入った巣板を養蜂場から隣接する作業場へ移動させたら、いよいよ採蜜作業の始まりです。
 
まずは、巣板の表面にある「みつろう」を取り除く作業。
ミツバチは巣板にはちみつを蓄えたあと、ろうで巣板に蓋をします。これをナイフで削り取ることで、中に溜まっているはちみつを採取することができます。取り除いた「みつろう」も、ミツバチの労働によって生まれた貴重な生産物。無駄にはせず、キャンドルの素材や木製品の仕上げ材として活用されています。
続いて、巣板を遠心分離機にセッティング。 はちみつを絞り出す工程です。
レバーをぐるぐると回すと漂ってくる、 初夏の様々な花の香り。そして巣板からはちみつのしずくがピュピュッと飛び出し、機械の底にだんだんと溜まっていきます。
 
はちみつをすべて絞り終えたら、ろ過作業です。
栄養成分を壊さないために、L’ABEILLE養蜂場では、はちみつに熱を加えません。
その代わり、「みつろう」 や巣の破片が混入してしまわないように入念な注意を払いながら、 時間をかけてしっかりと、ろ過を行っていきます。
 
ミツバチたちが緑深い高尾の山々を思い思いに飛び回り、短い一生をかけて集めてきてくれた大切な蜜。
「一滴も無駄のないように」と丁寧に作業を終え、実際に商品として販売されるはちみつがようやく完成しました。

早速採れたてのはちみつを試食させてもらうことに。
とろりとスプーンに垂らして、まずはひとくち。
きわめて繊細な風味で、はちみつ特有のえぐみが無く、やさしく広がる甘さ。豊かな花の香りと華やかな味わいが醸す、長い余韻。フレッシュな採れたてはちみつならではの崇高な味わいに、一同は驚きを隠せません。
その時、ふと鈴木は気づきました。
「あ、ほんのり栗の香りがする!」
採蜜をしたこの日は、6月某日。ちょうど高尾に自生する栗の木がクリーム色の花を咲かせるシーズン。 今回採れたはちみつには、香ばしい風味とコクのある甘みが特徴の栗の花の蜜が含まれていました。その季節ごとの花の香りを感じられるのが、百花蜜の大きな魅力です。
日本らしい繊細で上品な味わいが特徴で人気がある国産はちみつ。その中でも百花蜜は、複数の花から採れたその穏やかな香りから多くの人々に愛されています。
「時期によってさまざまな花蜜の味わいが楽しめると思いますが、人気の花蜜の種類はどれですか?」
鈴木の問いに、養蜂スタッフが答えます。
「採蜜は初夏~夏にかけて行われます。なかでも豊かな花の香り広がる桜や藤はとても人気があります。また、初夏に採れるまろやかで親しみやすい味わいのアカシアも好きな方は多いですよ。 高尾で採れる百花蜜は、自生する植物の多さから香りの豊かさと味わいの奥深さが格別です。採れる時期や年度によって風味も異なるため、一期一会の味わいが楽しめるのです。」

試食を終えて、新しいお菓子の構想がそれぞれに浮かび上がってくる3人。
早速このはちみつを元に新作を作ろう、と決意した彼らに、養蜂スタッフの一人が声をかけてくれました。
「素材本来の美味しさを引き出す点にこだわられる鈴木シェフや皆様の手で、L’ABEILLE養蜂場で採れたはちみつをどのようにアレンジしてくださるのか、とても楽しみです!」
スタッフが最後に手渡してくれたのは、今日採れたばかりのはちみつがたっぷりと入った瓶詰め。瓶の中で黄金色に輝く、ミツバチからいただいた自然の恩恵。3人は大事に持ち帰り、養蜂場を後にしました。
次回はいよいよ、
L’ABEILLEのはちみつを使った
お菓子作りの様子をリポート。
パティシエたちはお菓子を通して
どんな物語を描いていくのでしょうか。
次回更新を楽しみにお待ちください!